[相談]
私は、今年45歳になる者です。これまで勤務していた会社に退職金制度が無かったため、このたび思い切って転職をしました。
転職先の会社では、このまま勤務を続けられれば、65歳到達時に退職金800万円(勤続年数20年)を受給できる予定ですが、それだけでは老後資金が不安なため、個人型確定拠出年金(iDeCo:イデコ)を始めることにしました。
具体的には、iDeCoの掛金納付を45歳から65歳まで続け(納付期間20年)、70歳到達時に一時金(老齢給付金)300万円を受け取りたいと考えています。
ところで、上記のように会社からの退職金を受給した後にiDeCoからの一時金(老齢給付金)を受け取った場合、所得税法上の退職所得控除額はどのように計算されるのでしょうか。令和7年度税制改正の大綱の内容も交えて教えていただけると幸いです。
[回答]
現行制度では、その年の前年以前19年内に退職手当等の支払いを受け、かつ、その年にiDeCoから一時金(老齢給付金)の支払いを受けた場合には、退職所得控除額について、特別な計算方法(調整計算)を行うこととされています。その詳細と、令和7年度税制改正の大綱による改正(予定)内容については、下記解説をご参照ください。
[解説]
退職手当等の受給については、所得税法上、「退職所得」として課税されることとなっています。その退職所得の金額は、原則的には次のように計算されます。
(収入金額(源泉徴収される前の金額)−退職所得控除額)×1/2=退職所得の金額
上記の計算式における「退職所得控除額」とは、退職所得の非課税枠のことです。
その金額は、原則的には、勤続年数が20年以下の場合には、40万円に勤続年数を乗じた金額です。ただし、その金額が80万円に満たない場合には、80万円となります。
他方、勤続年数が20年を超える場合には、70万円に20年を超える勤続年数分を乗じた金額に、800万円を足した金額です。
なお、所得税法上、確定拠出年金法に規定する個人型年金規約(iDeCo)に基づいて老齢給付金として支給される一時金(老齢給付金)は、退職手当等とみなされます。
所得税法上、その年の前年以前4年内に退職手当等の支払いを受け、かつ、その年に支払いを受けた退職手当等につき計算した期間の基礎となった勤続期間等の一部がその年の前年以前4年内に支払いを受けた退職手当等と重複している場合には、上記1.の退職所得控除額は、特別な計算方法で算出することと定められています。
具体的には、次の(1)に掲げる金額から(2)に掲げる金額を控除した金額が、(その年に支払いを受ける退職手当等にかかる)退職所得控除額となります。
(1)その年に支払いを受ける退職手当等につき計算した金額
(2)重複している部分の期間ついて計算した金額
さらに、その年に(退職金ではなく)iDeCoから一時金(老齢給付金)の支払いを受けた場合には、上記の「前年以前4年内」が「前年以前19年内」に変わります。
平たく申しますと、(退職金・一時金の)受給の順番が会社が先、iDeCoが後である場合において、その年の前年以前19年内に会社から支給された退職金について適用された退職所得控除額は、その年にiDeCoから支払いを受ける一時金(老齢給付金)に再度適用することはできない、ということです。
反対に、(退職金・一時金の)受給の順番がiDeCoが先、会社が後である場合には、iDeCoからの一時金(老齢給付金)を受け取った年の翌年から数えて5年目(以降)に(会社などからの)退職金を受け取れば、上記の退職所得控除額の特別な計算方法(調整計算)の適用を受けないこととなります。
昨年末に閣議決定された「令和7年度税制改正の大綱」によれば、会社から退職金の支払いを受ける年の前年以前9年内にiDeCoからの一時金(老齢給付金)の支払いを受けている場合には、その一時金等について、上記2.の退職所得控除額の特別な計算方法の対象とすることとされています。
このため、上記のような法改正が行われた場合には、iDeCoからの一時金(老齢給付金)を受け取った年の翌年から数えて10年目(以降)に(会社などからの)退職金を受け取らないと、上記2.の退職所得控除額の特別な計算方法(調整計算)の適用対象になるものと考えられます。
[参考]
所法30、31、201、所令70、72、確定拠出年金法62、国民年金法7、9、財務省「令和7年度税制改正の大綱(令和6年12月27日閣議決定)」など
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